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背番号20はみんなの想いを背負う

日本中が高校野球で沸騰中!

青森県大会ではベストエイトが出揃った。
聖愛高校は1回戦から3試合連続コールドで勝ち上がった。
ここまでは順調だが、ここからが本当の勝負だ。
実力伯仲の中、勝敗を決するのは僅かな差。
技術や戦術はもちろん、メンタル面の比重も高い。
最後は「想いの強さ」。つまりイメージのチカラだ。
どんな時でも、揺るがない勝利のイメージを持てるか?
例えば7点差で負けていても勝利のイメージができるか?
大逆転劇を起こしたチームはそれができたチームなのだろう。
明日から準々決勝、準決勝、決勝。
どんなドラマが待っているのか、ワクワクが止まらない。
さて、聖愛高校ではベンチ入りメンバーを投票で決める。
チーム内では『聖愛総選挙』と呼んでいる。
選手も監督も1票ずつを持ち20人の代表を選ぶ。
絶対的なエースや主軸を打つ選手はともかく。
当選か落選かの瀬戸際にいる選手は運命の一日。
その選手は春季大会でベンチから外れた。
冬場のトレーニングで懸命に努力したのに結果を出せなかったのだ。
この時季、ベンチ入りできない3年生は岐路に立たされる。
夏までもう一度チャレンジするか?スタッフとしてチームに貢献するか?
どちらも立派な選択なのだ。一概にどちらがいいかは判断できない。
彼はチームトレーナーになることを決断した。
本人にとっては苦渋の決断だ。将来を見据えてのことだ。
とはいえ、ずっと応援してきた両親は落胆しただろう。
親は誰でも、野球をやっている息子の姿を見たいのだから。
期待に応えられない自分を責めて、野球を辞めたいとさえ思った彼。
そんな中、僕は彼と話す時間をもらった。
「もうこれ以上頑張りようがない。もう充分にやりきった」
「両親には申し訳ないと思う。ごめんなさいと伝えた」
「将来はスポーツトレーナーになりたい。今から準備したい」
チームトレーナーになって貢献する、素晴らしいビジョンだと思った。
けれど、何かスッキリしなかった。
彼の心の中に燃えカスが残っているように感じた。
「将来スポーツトレーナーになった時、野球選手の治療もするのかな?」
「はい、やります。それが一番やりたいことです」
「少年野球や高校野球の選手の治療をするんだね?」
彼はキラキラした目で頷いた。
「治療だけじゃなく、いろんな相談にものってあげたいよね?」
うん、うん、と何度も頷く彼。きっと未来の映像が見えている。
ここで僕は核心に触れる質問をしてみた。
「もし、レギュラーになれなくて悩んでいる子や
ベンチ入りできなくて心が折れそうな子が来たら何て言ってあげたい?」
一瞬、彼はハッとした表情を見せて、うつむいて考え始めた。
「どんだけ頑張ってもベンチに入れない・・・もう辞めたい・・・そう言われたら
未来のキミはどんな言葉をかけてあげるだろう?」
しばらく時間が経った。ちょっと苦しい質問だったかもしれない。
彼が顔を上げた。
「やりきれと言います。最後までやりきれって言います」
「そうか。最後までやりきって欲しいんだね。それが大切なんだね」
黙って彼は頷いた。
立ち上がって握手して別れた。
夏の甲子園予選開幕1週間前。
監督から最終のベンチ入りメンバーが送られてきた。
背番号20に彼の名前があった。
投票と話し合いの結果、みんなの総意で決まった20番。
やりきったんだな。未来の自分のためにやりきったんだ。
1回戦で一度だけ打席に立った。スタンドから大拍手が起きた。
それ以外はブルペンキャッチャーをやっている。
大きな声でチームに元気を与える選手。
準々決勝、準決勝、決勝。仕事はまだまだある。
背番号20はみんなの想いを背負っているのだ。

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